涙の決勝戦
ヤツの借金を背負わなければならない。
頭の中がその大きな重荷でぐるぐるになりました。
私は日本バドミントン協会公認1級審判員の資格を持っています。
9月1日は関東総合バドミントン選手権に審判員として参加する予定があり、どうしても今まで続けてきたことを辞めたくなくて参加する旨を伝えていました。
8月半ばの大きな大会はさすがにドタキャンしていましたし、休んでしまったら二度と復帰できないような気がしたからでした。
でも、その直前に「関係大あり」の宣告を受けたのでした。
気持ち的には試合どころじゃありません。でも、動いていなければ不安に押しつぶされそうな気もしていました。
なので、敢えて大会には参加しました。たくさんの審判員で順繰りに役割を廻しますから、必ずしも責任の重い「主審」をやらなくてもよい試合もあります。
良い感じで楽な試合で主審、大変なのには線審がまわってきて、心萎えている私でも、なんとか失敗せずに運営に参加できていました。
ところが、最後の試合で「主審」が廻ってきてしまいました。それも女子ダブルス決勝。
男子の試合は既に終わっていて、女子のダブルス決勝と三位決定戦が大会の最後の試合でした。
こんなときに。
あー、こんなときに失敗できない大きな試合…。
身内の不幸を伝えてあるのは審判部長と事務局長だけ。もちろん、彼らは「無理するな」と言ってくださっていました。そこを敢えて「やりたい」と申し出てしまったのですから、まさか、ここで気力がないのでできません、とも言えません。
しょうがない、やるしかない。と審判台に登りました。
集中、集中、と自分に言い聞かせ、なんとかファーストゲームを仕切っていたとき、隣のコートで事件が起きました。
選手がリタイヤしてしまったのです。たぶん、怪我です。
隣の試合がなくなってしまって、大きな体育館でゲームをしているのは私の「決勝戦」だけ。
静まり返った体育館で聞こえるのは私の試合の音だけ。コールの言葉の全てを会場の人々が聞いてしまうじゃないですかっ!
…もう、もう、夢中で試合を進めました。
最後のコールが終わったとき、汗と涙で顔はぐちゃぐちゃでした。最後まで間違いなくやり遂げることができたのです。とても暑い日でしたから誰も私が泣いているとは思わなかったでしょう。