底抜け脱線人生の歩き方

夫の突然の交通事故死。限定承認、会社の清算、失業、未払い賃金立替闘争、父の死、婿ウツ、etc. 底抜け脱線人生の顛末。

事故の顛末

いろんな人から聞かれましたからご存知のかたも多いのですが、この事故がどういう経緯で起こったか、書いておかなければなりませんね。

 

あの日、ヤツは午後3時ごろまで事務所にいたようです。当時、事務所で働いていたのははヤツと取締役のM、そして平社員の私の3人。私はオフで旅行中。Mはヤツがあの女から借りていたお金を工面して(Mは相手が女とは知らなかったと言っていますが)ヤツに渡した。そしてヤツはその金を持って、女に会いに行きました。

夕方、新橋のプロントで会って金を返し、しばらく一緒にはしご酒したようです。

そして、9時すぎに女と別れ、私に電話したようです。そのあとまだ飲み足りなかったのか、行きつけのバーに立ち寄りました。

「かなり酩酊していたので、それ以上飲まないようにとたしなめました」と最後に立ち寄ったバーのバーテンさんは言っていました。そして、多分10時半ごろ、新橋からタクシーに乗りました。

現場に着いたのは午後11時すぎ。246の真ん中でタクシーをおり、事故に遭いました。

頭の後ろをひどくぶつけ、かなりの距離を飛ばされたようです。出血がひどかったといいます。遺体は基本その頭の後ろの損傷のみで、他にこれといった傷はありませんでした。

彼を跳ねてしまった車の運転手はすぐに心臓マッサージをして救急車を呼んだそうです。適切な行動でした。

 

どんなに酔っ払っていてもいつもは玄関先まで車で乗り付けるのです。

それが、どうして246の交差点の真ん中で降りたのか、私は同乗者がいたのでは?と思ったのですが、どうやらそれは間違いのようです。

 

お巡りさんは言いました。

「ご主人は赤信号で止まった車の後部座席から降りて、車の後ろを回って反対側に渡ろうとしたようです」。事故にあった位置がそれを物語っていたのです。

お盆の夜中で車の往来はほとんどありませんでしたから、信号待ちをしていた車はなかったのだと思います。信号待ちをしていた車があるなら、動き始めたことに気づいたことでしょう。

運悪く、近くに車は無かった。あったのは少し遠くから信号が変わったのを遠くに見て、なんの疑いもなくスピードを上げた車が一台…。

 

あの事故の夜が明けた朝、私は現場に行きました。何事もなかったような静かな朝でした。そして道路脇の歩道の植え込みの中から、ヤツの靴下を見つけたのです。

靴下は汚物で汚れていました。

警察から渡されたヤツのズボンも汚物で汚れていました。脳をやられるとお腹のものが下ることもあるようですが、これは明らかに事故の前に汚れていたことを示すのです。

 

ヤツはお腹を壊して、慌てて降りた。

多分、それがあのとき起きた事件の発端ではなかったかと。

 

右折できない複雑な交差点なのです。いつもはその前に脇道を教えて、結果的に右折できるように進めるのですが、この時はその指示を怠ったようです。きっとお腹が痛かったのでしょう。

私は事情を確かめたくて、タクシーの領収書を必死に探しましたが、とうとう見つかりませんでした。

いつもは必ずカードで支払うのに、その時は慌てて現金で払って領収書を取らず、ひょっとするとお釣りも取らなかったかもしれません。

タクシーの運転手さんは絶対同じ道を戻って帰っているはずですが、申し出てはくれませんでした。

 

腑に落ちないことはたくさんあるのです。

世の中には「完全犯罪」というのは存外たくさんあるんだろうな、と思うのです。「迷宮入り」なんて、不完全犯罪です。完全犯罪はそも、誰にも知られないのですから。

日本の警察なんて、たいしたことありません。神奈川県警のお巡りさんにヤツは新橋からタクシーに乗ったらしい、と伝えると、「奥さん、『新橋』ってどこですか?私ら横浜ならどこの地名でも分かりますけど、新橋はどこにあるかも分かりません」と言われました。広域捜査になるので、東京には行けない自分で調べろ、というのです。その程度です。殺されてたって、分かりゃしない。

 

ヤツと最後に過ごした月曜日の朝、何だかいつもと違うことがありました。それを思い出すたびにヤツは自分が死ぬ、って分かっていたんじゃないかと思うこともあります。

行動はあまりにイレギュラー。いつもと違っていたのです。

 

でも、すべては闇の中。今更、何を掘り返しても誰も幸せにならないでしょう。

あの後、交差点では横断禁止の柵が伸ばされました。ヤツの死のおかげでしょう。

結局、全ては闇の中。