終わりの始まり。
病院で通されたのは待ち合い部屋。ヤツはICUにいるのだと言う。ICUですか。
ずいぶんと大仰な…。
長く待たされました。
その間に持ち出し忘れた携帯電話をドラちゃんに取りに戻ってもらいました。やっぱりどこか慌てていたんだね。
どうして、こんなに待たされるんだろう…。
やっと先生が呼びにいらっしゃいました。
廊下で先生が言いました。「運び込まれた時は既に心肺停止状態で」。
シンパイテイシ?
シンパイテイシ?
シンパイテイシ?
その言葉の意味が理解できないまま、先生にくっついて廊下を歩きました。
案内された部屋にはベットはひとつ。ベットというより「台」ですわ。
そこにヤツはおりました。口にチューブを挟んだままで。
若い先生が心臓マッサージを続けておられて。
案内してくれた先生が言いました。
「もう、一時間以上やっているのですが、このまま続けても助骨が折れるだけなんですが…」
ああ、もう、これ以上やっても無駄だ、って言いたいのね。
私にもうお終い、って言ってもらいたいのね。
すぐに全てが解りました。
それで、思わず口に出た言葉。
―はい、皆さんお疲れさまでした―
まるで、撮影の現場にいるような気がしました。オツカレサマデシタ、と言うと、患者役のヤツが「あー疲れた」って起き上がるような気がしました。
でも、それは違う。ヤツが目覚めることはありませんでした。二度と。
私たちが入る前に部屋はすっかり片付けられていたので救急治療の修羅場は伺う余地もありませんでした。
結局、私は自分でヤツの終わりの幕引きをしたのだと思います。
確かにあの時、私はドラちゃんの左肘を掴んでいたことは覚えていました。後からドラちゃんが言うには、それは凄まじい力だったらしい。
ドラちゃんの左肘を掴んだその手から、何かが漏れて行くのを感じていました。
それを吐き出さないとその後の凄惨を極める日々に向って動いて行くことができなかったのだろう、今になってみるとそう、思うのです。