すべてはあの夜、始まった。
2012年8月15日。
この際、終戦記念日だったことはどっちでもいいこと。
連日の熱帯夜。私は前の週に大きな仕事を終えて、報告書も書き、やっと三日ほどのオフをもらって、大好きな京都の街を浮遊し、病床の父を大阪に見舞って、終電何本か前の新幹線で帰宅したところでした。
最寄りの駅に着いたときに救急車が走っていきました。ああ、またどこかでお年寄りが熱中症で倒れたのかな、と。まさか、それがヤツを迎えに行く車だとは思いもよりませんでした。
たしか、新幹線の車中で電話をもらいました。
「今、東京。D社と吞んでる」という言葉はちょっとろれつが回り切っていなかった。吞み過ぎんなよ、さっさと帰れよ、と言ったはずです。
自宅に戻って、帯を解き、甚平に着替えたとたん、玄関ベルが鳴りました。
帰ってくると思っていたから鍵は開けたままにしていたのにわざわざベルを鳴らすか。まったく、と思って階下に降りドアを開けたら立っていたのはヤツではなく、お巡りさんでした。
お巡りさんはヤツの名刺を出して私に言ました。「この名刺の方のお宅はここですか?」はい、そうです、と応えたら、ヤツは交通事故に遭って病院に運ばれた、と言う。はあ、また何をやったのかあの酔っぱらい。
お巡りさんはヤツの名前や住所、生年月日などを次々に訊く。私はてきぱきと応える。その度に肩につけたインカムに「ガイシャ」「ガイシャ」と言う。なんか嫌だな、その「ガイシャ」って言い方。
一通り聞き出したらお巡りさんは病院に行ってくれ、と言い残して去って行く。
寝ていたドラちゃん(長男)を起こして二人で車に乗り込む。おとーさん、何やってたんだろね~。足でも折ったかな?まーこのところ忙しかったからいいお休みになるかな~、なんて言いながら病院に向いました。
「ガイシャ」。外車には興味ないんですけど…うちは軽だし。