呑んだくれて車道にでたら?
人身事故、というのは被害者がよっぽど非合法なことをしていない限り、歩行者に手厚く保証されるものだと勝手に思っていました。
世の中そんなに甘くありません。酔っぱらって車道に出たら、それも深夜、横断禁止の道路で。
止まっている車に勝手にぶつかってもそれは運転者の責任じゃないですよね。もちろん駐停車禁止の所で停まっていたら、別ですよ。「当たり屋」という悪い人たちもいますが、それこそ、わざとぶつかって怪我をしてもそれは運転者の責任じゃないです。
話を進めていくとヤツの過失割合はとても重く、思うような賠償にはならない、と言うことが見えてきました。
相手に過失が認められない、というほどではなかったので、少しは出るらしい、ということではありましたが、どこまでバカなんだか。
みなさん。たとえば泥酔して夜中、道路に寝転んでいたところを轢かれて死んだら、ほとんど保障はないと思った方が良いようです。気をつけて下さいね。
吞んだら乗るな。外も歩くな…、というわけにはいきませんが、まあ、やっぱり飲み過ぎはいけません。
酔っ払い歩行も取り締まって欲しい。ほんと。
K弁護士。
事故の交渉、ということで、とうとう正式に弁護士の力を借りることになりました。その先生は赤坂見附の駅そばにコンパクトでスマートなオフィスを構えておられました。いろいろなんですね。弁護士さんも(この後まだ何人か会っていますので、また書きます)。
初老、というかベテランさんらしきそのセンセイは、いつもTさんと組んで事故の処理などをされているようで、事故に関してはとても経験がありそうでした。
でも、今回はかなり複雑です。とにかく、事情を話してどうしたら良いか、お聞きしました。
何となく、親身になって聞いてくれるというより、妙な調子よさで、言いくるめられそうな感じがする方でした。Tさんのご紹介の方ですから、敢えて断るという選択肢は持っていませんでしたし、弁護士というのはこんなもんだ、と思って話を聞いていました。
ともはれ、誰かに頼まなければ取れるものも取れない、と思い、委任契約を結ぶことにしました。
条件は着手金+成功報酬の1/10。まあ、真っ当な数字だそうです。ふうん。
いつも疑問に思います。損害賠償請求額って、損をした分、ですよね。それが取れた時に10%弁護士に払ったら損害の90%しか手当してもらえないことになっちゃいますよね。そこはこっそり水増ししてもらわなきゃいけないんでしょうかね?
弁護士を雇う。そんな人になるとは思わなかった…。
Tさんのこと。
法との闘いはもうひとつありました。
それは損害賠償請求という作業。
当初、人身事故なんだから、それなりに立派な肩書きがあるんだから、結構な金額が取れるだろうと勝手に想像していました。
私の心のなかには漠然と「潤沢な資金の元、安穏とした生活を送り、 周りで頑張ってばっているけど世の中に認められていない、アーティストや職人たちの良いパトロンになる」という姿がありました。「和製ターシャ・テューダーのような生活を」というと聞く人ほぼ全てが口を揃えて「似合わない」と言います。
私って、そんなに落ち着きのない人間なんでしょうか?(笑)
ともはれ、素人が賠償交渉なんてとても出来ない、と悩んでいましたら、密葬のときに駆けつけてくれた牧師仲間のI先生の教会の会員に損害保険の代理店をやっている方がおられるので、相談してみたら、と紹介をうけました。
Tさんは今回の事件とは関わりのない会社の保険を扱う方でしたが、こんなときにどんなことをすれば良いのかお聞きしたくなり、お願いすることにしました。
あまり日を置かず、すぐにTさんは来てくださいました。パーキンソン病の手術を受けられて快復されたばかり、ということで、足が少しお辛いのと話すことに少し苦労されている様子でした。
でも、暑い夏の日に彼はきてくれました。現場を視察し、状況をよくよく聞いて下さいました。
Tさんは私と同じ信仰をお持ちでしたから、現実の厳しさを直視しながら、アドバイスを下さると同時に祈ることや励ます言葉で、私たちを支えてくれました。
そのTさんの紹介でしかるべき弁護士さんに交渉を依頼することにしました。
出会いはいつも不思議。もしも、あの日あなたに、出会わなけれっば?
どうしてあなたが来るんですか?
着いた時はお昼で、午後の業務開始を待って、競売の申請窓口を訪ねました。
まず、家を競売にかける為にはどうすれば良いのか、と尋ねました。
すると窓口の人は「奥さんが来たんですか?弁護士じゃないんですか?」と言います。
私が財産管理人ですが、何か?というと、いや、普通、ここには業者か弁護士しか来ないんで、と言う。
いや、法は財産管理人が手続きせよ、言ってんじゃないの?
で、事情を話し、競売にかける手続きについて教えてくれ、と言うと
窓口の人はまるで始めて聞いたことのことのように慌て始め、分厚い本を取り出し、仲間と話し合い始めてしまいました。そんなに珍しいことだったんでしょうか?
競売にかけるにはその財産は売り出す人のものになっていなければならない。=相続をしなければならない。but 相続できるかどうか分からないわけで、私のものになっていない=競売にかけることができない。
あれー?
で、どうも的外れな話になって行き、ついにその人は言いました。
「ですから、これは家庭裁判所の仕事ですっ!」
はあ?
弁護士が地裁に行け、って言ったんですよ。プロの法律家が…。
というお粗末な顛末で、今度は家庭裁判所へ。
そこで知ったのは、
家を競売にかけるかどうか決める前に、家の価値を測る鑑定人の選定を裁判所に申請しなければならない、と言うことでした。
家と土地の鑑定を行って、その価格が判明した時点で、同じ金額を用意出来れば、家とお金を取り替えることで、財産の一部を先買することができるのです。
買えなければそこで初めて競売、ということになるのです。
一度整理しましょう。もう一回。
限定承認とは、相続のやり方の一つで、死んだ人間の自己破産のようなものです。借金を返せなくなった場合、個人でも法人でも破産することがあります。そんな時、破産管財人を立てて財産を整理し、債権者に分配した上で支払えない債務については免責してもらう、ということがあります。
それと同じことをするわけです。
まず、債権者を特定し、(そのために公告を出し、期間を決めて債権者が申し出るように促します)債務額を確かめ、それから、ヤツの財産を調べ、必要に応じて換価して全てを金銭化します。その財産を債務額に応じて按分して債権者に支払えば全て終わりです。
もし、財産が債務より多ければ、残りは相続人が相続します。少なければ残りは免責です。
…と書けば、簡単な事のように思えますか、そうそう簡単なことではありませんでした。
それぞれの作業ごとに、まあ、いろいろとあった訳で。
おそらく、債権者としては多少なりとも弁済されるわけですから相続放棄よりは好ましいのでは、と思いますが、ほとんどが金融業者なので、額の小さいところは処理に時間がかかって効率が悪い、と思うかもしれません。
それでも、「申述」してしまいましたから、もう後戻りはできません。
その作業の中で最も大変だったのが、自宅不動産の換価と買い取りだったのです。
競売は地裁、不動産鑑定は家裁。一般人にはちんぷんかんぷんですぅ〜。
財産管理人は何をやるの?
何もしないでままひと月が経っていましたから、もう、大変です。
自分が何をしなければならないのか、結局、ネットで調べる位しか手のない私。
裁判所に電話して担当書記官さんに尋ねても「裁判所ではアドバイスも指示もしません」の一点張り。
私は法に触れることをしたくないのだ!と食い下がる。
そも、裁判所というのは、訴えられて初めて、ことの善悪を判断するところだそうで、
今から人を殺します~!と叫んでもも止めてはくれないらしいです。(現実には殺人予告はすでに犯罪)
しょうがないので、弁護士に話を聞こうと思いました。
でも、何処でどんな人を探せば良いか、さっぱりわかりません。
無料の相談窓口はないかと考えて、調べました。法テラスは資産持ちは申込めません。私はヤツの死亡共済金を既に受け取っていましたから、資格がないのです。
横浜市で市民向けに25分の無料相談をやっていることが分かりました。でも一人につき一回だけです。一か八か、申し込んでみました。
でも、担当の弁護士が限定承認のことを知っているか、条文を探し出す時間がもったいないので、ネットで調べた民法の当該部分をプリントアウトして、持っていきました。勿論、質問項目もリスト化してペーパーにしました。
25分で何処まで聞けるか、勝負だったのです。
聞きたかったのは、
1財産管理人のなすべき仕事について。
2自宅を買い取るための方法について。
案の定、その時に会った弁護士はしゃあしゃあと「やったことないから」と言い訳しました。
おいおい、市民の皆さんはありとあらゆることを相談に来るんだよ。
プロのあんたが知らない、なんて言っちゃったら、困るじゃないか。
私には一回のチャンスしかないんですよ。一人目がダメダメなら、他の弁護士に会えるチャンスぐらい作れよ、と、思いましたが、市はそんな配慮なんかしちゃくれません。
ですから、持って行った条文を読ませ、読み解いてくれ、と頼みました。
おバカな弁護士は、私のメモに競売、という文字があるのを見て、地方裁判所に行け、と指示しました。
それは、競売に掛ける前に遺族が家を買い取る、ということを書いてあったはず。私には「競売」という大掛かりな法的な処置のことは全くイメージできていません。
確かに土地建物の競売は地裁の仕事なんですよ。でもね〜。
素直な私はそのまま地裁に向かいました。
な〜んにも分かっちゃいない。「鑑定」「競売」「先買権」。私も、弁護士も。
あなたが財産管理人でしょ!?
裁判所に申述をして、受理の通知が来たのは10月の終わりだったと思います。
11月の第二週の政府公報に他の方々の公報とともに、限定承認の公告は掲出されました。内容は「この度死亡したヤツの財産相続は限定承認になったので、債権を持つ者は2ヶ月以内に申し出るように」というような趣旨の文章です。
前に、きっちりお知らせしましたが、もう一回おさらい。
限定承認とは、亡くなった人間の自己破産みたいなものです。故人の持ち物を探し出し、全て換価して数値化し、債権者の持つ債権額で按分して分けます。故人の財産が債権額より多ければ残りは相続人が相続し、少なければ足らない額は債権は放棄となります。
何故、こんな方法が存在するのかと言うと、単純承認(相続)では、故人の借財が多すぎる時に相続人は自分の財産まで取られてしまいます。放棄すればその責任は逃れられますが、住んでいる家や財産が故人の名義であったものもことごとく失うことになります。もちろん債権者にも配当はありません。
第3の方法である限定承認では、故人の財産を換価するにあたって、相続人達が家や価値のある遺品などに対しその評価額を差し出すことで優先的に買い取ることが出来るのです。これを「先賣権」と言います。
私たちは路頭に迷うわけにはいかなかったので、この第3の方法を選んだのです。ただし、買い取ろうとしていた家の価格はまだ測られておらず、私の手元にもほとんどお金は無かったのです。そこは「賭け」でした。
全く知識も経験もないワタシ。まさか過去にそんな経験があったら、どんだけー!?(古いなぁ…)というところですよね。
まずは、裁判所にも行き、公報も出し、やれやれ、と思っていました。
ところがひと月ほど経ったある日、債権者の一人、というか業者の担当から電話がかかって来ました。
「…さんの奥さんですね」はい、そうですが。
「債権の返済は、進捗はどうなっているんですか?」
はあ、限定承認いたしましたが。
「だったら、私どもの債権はどうなっているんですか?」
はあ、限定承認いたしましたが。
「あなた、財産管理人でしょ!管理人としての仕事をしてくださいっ!」
相続放棄なら、そう伝えるだけで、相手は引き下がったことでしょう。
私はどこか、放棄と同じように扱って貰える、と根拠のない甘えたイメージを持っていたのです。あとは放っておけば良い、2ヶ月の間にきっと誰も申し出てこない、と思っていたのです。
どっこい、そうは問屋が卸さない。
管理人の仕事?何をすればいいんでしょう?
慌てて、例の会社のN弁護士に電話しました。
そう、彼は「申し出る人がいるんですか?」と言いました。たぶん、本当に分かっていなかったのでしょう。
さあ、決戦の火蓋は、、、もう切られてたの!?
裁判所へ
ともはれ、弁護士のいう「限定承認」とやらいう手続きをやらねばならぬ、と頭の中は一直線。ネットで調べて書式をダウンロードして、手続きに必要な確認書類を集める。
そんな作業はやろうと思えばやれるものです。ただ、それがどんなことを含んでいるのかなどということは全く分からず、最初に会った会社の二人の弁護士の若手の方のN弁護士の物言いは、まるで相続放棄と同じように取れるような言い回しに聞こえたのです。たぶん、N弁護士は実務経験がなく弁護士でありながら勘違いしていたのではないか、と思われます。(後に債権者から問い合わせが来た、と相談したら、え?本当に来たんですか?とお応えでしたから。私の受け取り違いかもしれませんけどね)
よく、免許証書き換えで試験場に行くと「代書屋」というのを見かけますね。「申請などは自分で出来るもの」と専門業者などに任さなくても、国民のために用意された法的サービスは真っ当に受けられる、と思っていたのです。弁護士と代書屋を一緒にしちゃいかんですな。
裁判所というのは、当事者が行けばそれはそれで文句ないわけで、別に弁護士でなくても、申述位は出来るものです。
でも、その後何をしなければいけないか、とかどんなリスクがあるか、なんて、誰も教えちゃくれません。
ともはれ、よろしくお願いします、と規定の収入印紙を買って持って行けば、トコロテン式に申述受理、ということになっちゃいました。
その時は、公告のことだけは裁判所から言われました。政府の公報を出している新聞社があって、そこが必ず仕事出来るように紹介するらしいです。もちろん、お金がかかるんですよ。そういう商売がちゃんと備えられているワケで、上手いことできているもんです。